知財・法律
トップ  > コラム&リポート 知財・法律 >  File No.25-03

【25-03】AIが変える中国の知財保護のあり方(その2)

賈暁輝(中国移動特許サポートセンター主任)、徐慧麗(中国移動特許サポートセンター研究員)
2025年06月17日

中国の知的財産事業は一定の成果を収めているが「規模は大きいが強さはない、量は多いが質は低い」といった問題が存在しており、「知的財産強国」建設を推進する上で足かせとなっている。

その1 よりつづき)

AIが知財保護の高度化と効率化を後押し

 意味の理解や論理的推論といった基礎能力に加え、知識の強化、情報の抽出、翻訳変換、タスクの計画といった応用能力を備えることで、人工知能(AI)は知的財産権業務に新たな原動力を与え、その質の高い発展を推進する重要な手段となっている。

 まず、特許戦略の最適化を通じて、高付加価値特許の創出を支援する。AI技術を活用して膨大な特許文献を深く掘り下げて分析することで、技術分野における発展動向や注目度の高い研究テーマ、潜在的な技術的空白を速やかに特定できる。これにより、研究開発者に対して先を見越した戦略の提案を行うことができるようになる。また、AIは特許関連文書の作成過程で、技術的なアイデアを掘り起こし、研究者が新たな発明のヒントを見つける手助けをすることで、特許の質と価値の向上にも貢献する。

 次に、情報の非対称性を解消し、特許の実用化に向けた原動力を活性化させる。AIは情報格差の課題解決や、産学研(産業・大学・研究機関)の深い連携を促進する上で重要な役割を果たしている。従来の産学研連携では、大学、研究機関、企業の間における情報共有が不十分で、リソースのマッチングも不正確なケースが多かった。これに対してAIは、大学や研究機関の研究成果を分類・整理・タグ付けしたスマートなデータベースを構築するとともに、企業側の技術的ニーズやイノベーションの課題を収集・分析することで、両者のニーズをビッグデータとマッチングアルゴリズムによって正確に結びつけることができるようになる。

 さらに、ネット上での権利侵害行為をリアルタイムで監視し、保護効果を最適化することも可能だ。AI技術は、ネット上での権利侵害を検出し、追跡する機能を備えており、知的財産権保護の有力な支援手段となる。画像認識やフィンガープリント技術、テキスト認識などのAI技術を活用することで、ネット上のコンテンツや商品をリアルタイムで監視し、侵害が疑われる対象や行為を迅速に発見できる。また、AIは侵害行為の追跡も可能であり、大量のネットデータを解析・理解することで、微細な手がかりや証拠を発見し、侵害コンテンツの拡散経路や発信源を突き止める。これにより、権利者が自身の権利を守るための証拠を得る手段を提供する。

 最後に、審査の質と効率を高め、イノベーションに必要な時間を短縮する。従来の特許審査では、審査官が技術標準や提案書など、専門性の高い非特許文献を読む必要があり、技術的要点を見つけるのに多くの時間と労力を要していた。また、審査結果が人為的な要因の影響を受けやすいという課題もあった。これに対してAIは、その深い理解力や意味的検索機能を活用することで、先行技術の検索を支援し、審査の効率と精度を向上させる。これにより、革新的な技術がより迅速に保護を受けられるようになる。

 しかし現時点では、AIには依然として技術的な限界が存在していることにも留意すべきである。今後、AIが知的財産分野でより大きな役割を果たすためには、次の3つの方向性を重視する必要がある。第一に、AIのコア技術の開発を強化し、特許文献や法的文書といった複雑なテキストの処理能力をさらに高め、技術的基盤を固めること。第二に、AIのハルシネーション(幻覚)問題に対応するため、ローカル環境での運用を進め、あいまいや不確実、あるいは複雑な情報に対して不合理な判断を下すリスクを減らすこと。第三に、セキュリティ対策を強化し、営業秘密保護メカニズムを整備することで、AIシステムを使って特許情報や企業の技術資料といった機密性の高いデータを扱う際の情報漏洩や秘密流出のリスクを防ぐことである。


※本稿は、科技日報「人工智能为知识产权保护注入新动能」(2025年5月19日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

上へ戻る