【25-02】AIが変える中国の知財保護のあり方(その1)
賈暁輝(中国移動特許サポートセンター主任)、徐慧麗(中国移動特許サポートセンター研究員)
2025年06月16日
中国は近年、人工知能(AI)分野で顕著な成果を収めている。世界知的所有権機関(WIPO)の統計によると、中国のAI関連特許件数は世界全体の60%を占めており、世界最大のAI特許保有国となっている。AIを知的財産(IP)業務と深く結び付け、その融合を深化させることは、知的財産の創出、保護、活用、管理の効率を大幅に高める上で有効であり、知的財産の質の高い発展を実現するための不可欠な道でもある。
「知的財産強国」建設は複数の課題に直面
2025年は中国の第14次五カ年計画(2021-25年)の最終年に当たる。中国の知的財産事業は一定の成果を収めているが「規模は大きいが強さはない、量は多いが質は低い」といった問題が存在しており、「知的財産強国」建設を推進する上で足かせとなっている。主な問題点として以下のことが挙げられる。
第一に、高付加価値の特許が占める割合をさらに高める必要がある。中国は特許件数こそ膨大だが、付加価値の高い特許が占める割合はまだ低い。発明特許の保護期間は通常20年間だが、「2022年世界五大知識財産庁統計報告」によると、中国で認可された発明特許のうち、20年間満了まで存続したのが25%にとどまっているのに対し、一部の海外諸国ではこの割合が40%以上に達している。一般的に特許権の存続期間が長いほど、その実用化や応用の価値が高い。このほか、中国のテクノロジーイノベーション産業が国際市場での競争に積極的に参加しているが、特許件数では優位にあるものの、重要技術の確立やハイエンド市場における影響力という面では、依然として力不足といえる。
第二に、特許の実用化と応用の効率をさらに高める必要がある。中国のテクノロジーイノベーションにおいて重要な役割を担う大学や研究機関は、大量の特許を蓄積している。しかし、こうした特許は企業の産業化ニーズと必ずしもマッチしておらず、ギャップが存在している。一方で、大学や研究機関の成果は、理論研究や学術的価値に重点を置いており、市場展開は思うように進んでいない。他方で、企業は大学や研究機関の研究成果を十分理解しておらず、大学や研究機関の特許技術を実際の商品やサービスに効果的に転換するのが難しい状況になっている。このようなミスマッチにより、価値ある多くの特許技術の産業化が進まない状態となっている。政府の指導と支援の下、中国の特許の実用化と応用は一定の成果を収めているものの、先進国と比べると、依然として改善の余地がある。
第三に、知財保護メカニズムをさらに整備する必要がある。アルゴリズムによる推薦、生成AI、ライブコマースといった新技術や新たなビジネスモデルが次々と登場しており、著作権や商標、特許といった知的財産の保護に新たな課題をもたらしている。膨大な情報が飛び交うネットワーク環境下では、権利者が侵害行為を発見すること自体が非常に困難になりつつある。インターネット上の情報伝達は迅速かつ複雑で、侵害行為は往々にして、隠蔽性や多様性を伴うため、権利者が自分の権利が侵害されているのを発見したとしても、侵害の出所を追跡することが難しく、権利行使のハードルが極めて高い。こうした状況下で、権利者と産業発展の健全な利益バランスを取り直すために、知的財産権保護メカニズムを改善し、侵害検出とトレーサビリティ能力を高めることが急務となっている。
第四に、知財管理の質と効率をさらに向上させる必要がある。近年、中国では特許や商標の審査効率が高まっている。例えば、発明特許の平均審査期間は15.5カ月に短縮され、同様の審査制度を採用する国の中では最速の水準に達している。しかし、技術革新の速度が日々加速する中で、特許出願数も増加の一途をたどり、知的財産権の審査業務には引き続き大きな圧力がかかっている。業務量の増大と技術の複雑化に効果的に対応するためには、審査の質と効率の双方を継続的に向上させていくことが求められている。
(その2 へつづく)
※本稿は、科技日報「人工智能为知识产权保护注入新动能」(2025年5月19日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。