研究 技術 計画
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38 巻, 1 号
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特集 研究インテグリティの新たな展開:安全保障上の要請と科学研究活動における大学の自律性
  • 遠藤 悟
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 1 号 p. 2-5
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    In recent years, "integrity" in research activities has expanded beyond the traditional framework, and has come to be considered as an issue in response to security requirements. This special issue contains seven articles on this new "integrity" from various perspectives that may be helpful to universities and other research institutions as well as individual researchers in dealing with this issue. This paper briefly introduces contents of each article.

  • ―我が国研究コミュニティにおける取組の充実に向けて―
    村松 哲行, 岩瀬 公一, 澤田 朋子, 張 智程, 長谷川 貴之, 山村 将博, 鈴木 和泉, 奈良坂 智, 津田 憂子
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 1 号 p. 6-20
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    研究のオープン化,国際化に伴うリスクへの対応の強化の必要性が国際的にも広く認識され,利益相反に重点を置いた研究インテグリティの強化は,研究セキュリティ強化のための有効な手段であるとの認識が国際的に共有されつつある。

    我が国においても,2021年4月に政府が決定した研究インテグリティの確保に係る対応方針において,利益相反に関して,研究者自身による適切な情報開示,大学等がマネジメント強化等に取り組むこととされた。

    現在,対応方針に基づき,大学等において対応が進んでいるが,我が国には蓄積がないことから,海外の事例も参考にすることが適当と考えられる。

    本論文では,CRDSが2022年5月に公表した報告書に基づき,関連する国内外の最新動向を俯瞰するとともに,我が国の大学等が規定や体制の整備をする上で基本的な要素について,海外大学の事例を整理するとともに,留意事項を述べている。また,CRDSが検討に参画したOECDの関連報告書(2022年6月公表)の概要をまとめている。

  • 田村 朱麗, 山崎 恵理子, 有賀 理
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 1 号 p. 21-38
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    近年,研究活動の国際化,オープン化に伴って,研究成果の帰属が不適切に取り扱われたり,研究成果を非公開にすることが要求されたりする等,外国からの不当な影響による利益相反・責務相反や技術流出等のリスクが顕在化している。

    その対策の1つとして,2021年4月に統合イノベーション戦略推進会議にて「研究活動の国際化,オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針について(以下,政府の対応方針)」が決定された。研究インテグリティとは,研究の健全性・公正性のことであり研究者が自律的に確保するものである。

    本稿では,政府の対応方針が決定されるまでの経緯,及び,その概要について述べる。政府の対応方針の概要では,研究インテグリティの確保のために,研究者,大学・研究機関,公的資金配分機関にどのようなことを求めるのか,及び,それを実現するために政府がどのような支援をするのかについて説明する。続いて,政府の対応方針で求められていることに対する大学・研究機関の取組事例等を紹介する。また,欧米等,我が国と価値観を共有する国の動向を説明する。さらに,諸外国の動向及び我が国の現状を踏まえた上で,我が国において国際的に調和した研究インテグリティの自律的な確保の仕組みを構築するために,政府としては,アカデミアとより一層の連携をしていきたい等,今後の展望について述べる。

  • ―輸出管理法におけるアカデミアセーフガード条項の意義
    河野 俊行, 佐藤 弘基, 初 春
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 1 号 p. 39-59
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    経済安全保障推進法を受けて改正された省令及び通達により,2022年5月1日から,「特定類型」と呼ばれる3つの型のいずれかに該当する限り,国籍の如何を問わず,居住者であっても,かかる者に対する技術の提供は管理対象となった(みなし輸出の対象拡大)。これが我が国の大学等の研究機関に与える影響は甚大である。この点米国では,大学内で実施される基礎研究及び教育における技術情報の提供,またそれらを目的とした米国外への技術情報の移転は,輸出管理法の規制対象除外となっている。EUでは,EU域内で行われるものはそもそも管理対象とならないほか,また「基礎研究」の解釈が適切かどうかを判断するために,技術成熟度と産業界からの資金提供の普及度という2つの基準が用意され,明確度が高い。そもそも日本のみなし輸出規制は工業セクターための規制であるため,主に基礎研究を実施するアカデミア(大学等)に適用するには適していない。法律に設けられた例外措置が学術界一般を念頭においたものとはいえない以上,アカデミアセーフガードとしては不十分である。大学が管理徹底を研究者に求めることで,研究者の過度な自主規制などをも誘発してオーバーコンプライアンスに陥りかねない。経産省と文科省の協働により適切なアカデミアセーフガード条項を制度化するとともに,それを適格に運用する能力を持つ法務機能を充実させる必要がある。

  • 明谷 早映子
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 1 号 p. 60-68
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    米国で,2018年頃から,海外政府・機関がアカデミアに不適切な影響をおよぼし研究インテグリティを損なう懸念が示されてきたのを受け,日本でも,令和3年に,内閣府から,競争的研究費の適正な執行に関する指針や「新たなリスク」対応が進められてきた。とはいえ,アカデミアの現場だけでなく組織運営を担当する部署でも,そもそも研究インテグリティをどう考えればよいのか,従来からある利益相反・責務相反マネジメントとどう関係するのか,「新たなリスク」とは何なのか,どう理解し対処すればよいのか,戸惑いが大きいのが現状である。本稿では,本家である米国における研究インテグリティと利益相反・責務相反マネジメントの背景の変遷,第6期科学技術・イノベーション基本計画における利益相反・責務相反リスクマネジメントの位置づけ,研究インテグリティと利益相反・責務相反マネジメントの定義・考え方,研究インテグリティを確保した研究活動の自律性の課題とありがちな誤解,について述べ,アカデミアの現場で把握すべきリスクとそのマネジメントについて考察した。

  • 遠藤 悟
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 1 号 p. 69-85
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    研究活動における「integrity」は,捏造,改ざん,盗用の問題を中心にアカデミックコミュニティーの間で長年検討が加えられてきたが,米国においては,トランプ政権期において中国の経済的,軍事的な伸長を米国に対する経済的・軍事的脅威として捉え,安全保障上の要請に対応した新たな「integrity」が求められることとなった(本稿ではこの安全保障上の要請に対応した「research integrity」について「研究インテグリティ」の訳語を用いる)。この研究インテグリティの要請は,連邦政府研究開発資金を受領する者における,海外への不適切な情報の流出等に関する利益相反や責務相反の問題が主なものであったが,ファンディングエージェンシーは研究インテグリティの向上に向け,研究機関や研究者に呼びかけを行うとともに,独立科学助言グループJASONに検討を依頼するなどした。

    このような状況に対し,アカデミックコミュニティーは積極的に声を上げるとともに,安全保障上の要請に応えつつ,オープンな知識や人材の交流という学術研究の基本的な価値を護る取り組みを行った。その事例には,大学協会における外国政府の介入に関する行動の原則と価値に関する文書の策定,ナショナルアカデミーズによるラウンドテーブルにおける検討,そして,司法省のチャイナ・イニシアチブの問題に対する批判等が含まれる。

    本稿は,これら事例を報告することにより,日本における検討に資することを目的としたものである。

  • 船守 美穂
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 1 号 p. 86-99
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    近年,外国からの不当な影響による利益・責務相反や技術流出等への懸念から,研究者の外国との関わりを把握し,リスク管理をしようとする動きが世界的に進行している。しかしこの方法は,研究者による正しい情報の申告を前提とする上,問題把握が技術流出そのものを対象とせず,間接的であることから,十分に有効ではないと考えられる。

    本稿では,深刻なサイバー攻撃を経て,大学によるストレージ提供と研究データ管理計画(DMP)の導入により対策をとった豪州大学の事例を参考に,国内で全国大学対象に提供される研究データ基盤(NII RDC,2021年提供開始)を利用した,大学の研究データガバナンス構築の方法を提案する。具体的には,DMPではなく,研究データ管理記録(DMR)を利用することで,機関による研究者の研究活動を把握可能とし,機関の説明責任やコンプライアンスに対応可能とする。NII RDCおよび,これに搭載予定のDMRツールは全国展開されるため,国内の大学は最小限の負担で導入可能,かつ,大学横断的な連携も容易であり,この方式は国際的に見ても優位性がある。

    提案の方法は,大学の研究データガバナンス構築を主目的とする。しかし,DMRにより技術流出の把握や調査が可能となるため,研究インテグリティ確保にも一定の有効性はあると考えられる。他方,機関の管理強化による研究者の研究活動の抑制は避ける必要があり,将来的にはDMRが,研究者の未来の研究構想に役立てられることが期待される。

  • ―大学と社会のあいだの理解と誤解
    小林 信一
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 1 号 p. 100-107
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    本稿は,研究インテグリティ概念の成立について検討した上で,大学が社会に対して開かれることの意味を検討することを目的とする。

    研究インテグリティ概念は,日米ともに,曖昧な形で登場した。それまで,米中対立を背景とする地政学的環境の変化や技術流出問題と関連づけて議論されてきたことを,大学等の基礎研究分野に持ち込む中で概念化された。それは同時に,大学と社会の関係性の変化をもたらした。

    大学の研究活動のオープン化は,結果として,大学の研究活動は大学や学界に独占されるものではなく,社会全体が大学の研究能力を活用する時代の到来を意味する。それらはときに,特定のメディアや政治家が,伝統的な大学観や科学観を無視して,大学に対して研究の内容等に介入する形をとる。大学や学界は,こうした現実を十分に理解していない。一方で,大学の研究に介入しようとする人々は,大学の研究活動に過大な期待をしている。大学と社会のあいだには理解と誤解が交錯している。その上,研究インテグリティは,大学における経済安全保障問題の一部と捉えられることがあり,政治主導のさまざまな議論に波及している。

    研究インテグリティの問題は,究極的には,大学と社会の関係の変容の問題に帰結する。伝統的な大学論,学問論は,もはや現実を説明できない。我々は,新たな大学論,学問論,大学と社会の関係を追究していく責任がある。

研究論文
  • ―将来世代の視点による事業提案とその評価―
    細見 知広, 近藤 元貴, 若本 和仁, 原 圭史郎, 倉敷 哲生
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 38 巻 1 号 p. 113-129
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    企業の存続と持続的な成長において,社会環境の変化に適応した新規事業の創出は重要な課題である。しかし,10年を超す長期的な将来予測は不確実性が高く,現世代の立場による新規事業の検討や意思決定は,短期的,短絡的な判断を招きやすく,将来世代の視点や期待を反映することは難しい。本研究では,企業内において2040年の食に関わる新規事業の提案を導出するための参加型討議に,将来世代を考慮した持続可能な意思決定を導くための社会の仕組みをデザインするフューチャー・デザインの考え方を取り入れ,その効果の検証を行った。討議結果とアンケート調査の分析から,将来世代の代弁者としての役割を担う仮想将来世代の仕組みを導入した議論において,現世代視点で議論した場合と比較して長期的視点の獲得,現実性やコストに捉われないアイデアの導出,アイデアの社会貢献性向上の傾向が確認された。また,仮想将来世代での討議は現世代のそれと比べて顧客・キーパートナーをより重視した内容となり,事業提案ではステークホルダーの範囲が拡大した。各班の両世代から提案された事業を企業内の意思決定者が評価したところ,仮想将来世代の提案は現世代のそれと比べ,未来に対して慎重な立場を取りつつ,長期的な利益や事業の成長性,業界へ与えるインパクトが高い事業と評価された。企業における新規事業創出の支援においてフューチャー・デザインの有効性が示唆された。

研究ノート
  • ―米沢地域を事例として―
    三井 俊明, 古川 柳蔵
    原稿種別: 研究ノート
    2023 年 38 巻 1 号 p. 130-145
    発行日: 2023/05/08
    公開日: 2023/05/09
    ジャーナル フリー

    現在,直面している深刻な環境問題を解決するには,製造業は地下資源に頼ったものづくりから持続可能なものづくりへの変革が求められている。日本において企業数の99.7%,従業員数の約7割を占める中小企業も例外ではなく,特に各地域の中小企業が積極的にイノベーションを起こしながら変革していくことが重要である。

    本研究ではそのための最初の取組みとして,ものづくり中小企業経営者の暗黙の思考構造がどのようなものであるかを,オントロジー工学の手法である行為分解木を使って明示化することを試みた。山形県米沢市に所在する,新事業開発に意欲的な3社の経営者に経営に関するインタビューを実施し,その内容を行為分解木で記述した。それぞれの行為分解木から経営のゴールに関する上位の概念と,分解された下層にある下位概念を抽出し,それらの思考および思考構造が,米沢地域の他の経営者にも存在することをアンケート調査で明らかにした。これらの結果より,行為分解木手法は経営者の暗黙の思考構造の明示化に有効であることが判った。

    また,抽出した概念と米沢地域に独自の歴史,文化との関係についても検討した。江戸時代より連綿と続いている伝統的な産業「米沢織」の重要性に関する質問について,行為分解木から抽出したいくつかの質問との相関が確認され,地域の歴史や文化が現在のものづくり経営者の思考に影響している可能性が示された。

編集後記
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